中国最大の水産業都市「青島市(チンタオシ)」
日本の東京と同じ緯度にあり、気候も似ている中国の山東省東部に位置する港湾都市で、世界で最も知名度が高い中国のビールブランド「青島ビール」を製造していることでも有名な青島市出身のソンジンイです。私は両親の仕事の都合で2004年の4月から2006年の9月まで約2年半(小学4年生から小学6年生まで)、日本の公立小学校へ通い日本で生活をしたことがあるのですが、中学から大学までは帰国して中国の学校へ通っていました。そこで、今回のインタビューでは日本で興味をもったこと以外に、中国と日本の違いについて私が体験したことや感じたことも、お話しできたらと思います。
再び日本へ訪れた理由
将来、得意な日本語を活かせる仕事に就きたいと考えていたのですが、当時の私には、人に教えるためのスキルや日本語に対しての知識が足りないと感じていたので、日本で生活しながら日本語を学びなおそうと思い、2017年、日本の大学院に進学しました。大学院卒業後は、2020年から日本で塾講師として働いています。
中国と日本の違い:学校での学び方
先程もお話しましたが、私は小学生の前半は中国(1年生から3年生)、小学生の後半は日本(4年生から6年生)、中学生から大学生までは中国で生活していたので、2つの国で実際に学んで感じた共通点や違いについてお話したいと思います。
まずは「共通点」。中国の義務教育課程は基本日本と同じで、小学校6年、中学校3年の9年間です。(6歳から15歳まで)しかし、中国は国内の経済的地域差が大きいことから、農村部では小学校を5年、中学校を4年の場合もあります。その他、中国では新学期が4月スタートの日本とは違い、9月スタートですが、(学年は9月1日~翌年8月31日までの人が同学年)学年区切りで早生まれになる場合、殆どの国では入学する時期を選べますが(1年遅らせて翌年入学にかえることができる)中国は日本と同じで入学する時期を選ぶことができません。
次に、「違い」。私が1番違いを感じたのは授業中の教え方です。中国では、激しい受験戦争文化があるので、様々な角度から教えたり、考えさせたりするのではなく、小学生の頃から受験に必要なことだけを、先生が無駄だと判断した部分を省いた状態で徹底的に解説し教えこむことが多いのに対し、日本は受験に左右されたり、先生が教える内容を決めるのではなく、生徒自ら体験し「何故?」と考え、「発見する」過程を大切にしながら教えることが多いと感じました。そしてこの違いが、日本の大学院で授業を受けている時や、現在塾講師として働いている時に、大きく影響していると感じた出来事があったので、少しお話ししたいと思います。
■大学院での話
ある日、私が通っていた大学院でランダムにグループ分けをし、そのグループ内でディスカッションさせ、ディスカッションした内容を皆の前で発表するといった授業があったのですが、ディスカッションしてみると中国出身以外の生徒は固定概念にとらわれず様々な角度から物事を考え発表することが多いのに対し、中国出身の生徒は、既に存在するものに対しては深く考え発言することができるのですが、ゼロの状態から新しく考えなければならないような時は、想像を膨らませることができずに苦戦していると感じることがありました。
■塾講師として働いている時の話
大学院へ進学する際、自分が研究したいテーマを決め、どのように研究するのかをまとめた「研究計画書」を作成する必要があるのですが、研究したいから大学院へ行くのではなく、学歴目当てで大学院へ進学を希望している生徒の場合はこれが大きな壁となり、自分自身を苦しめることがあります。学歴が欲しいからと正直に書けたら楽なのかもしれないのですが、研究したいといっている内容に興味がないため、どうして大学院へ行ってまで研究したいのか自分でもわからず書くことができなくなってしまうのです。
このことから、受験勉強や学歴に特化したことだけを学ぶと、確かに効率よく成績を伸ばすことができると思うのですが、生きていく過程では想定外なことも多く、偏った思考が邪魔をして成長を止めてしまう事もあると感じたので極端な学び方をするのではなく、バランスよく臨機応変に学ぶことが大切だと思いました。
日本で叶えられたこと:猫と暮らす
これは、日本にきて興味をもったことではなく、留学したことで叶えられたことなのですが、私は日本へ留学したことで念願だった猫と生活するという夢を叶えることができました。この言葉だけを聞くと「中国ではペットを飼うことができないの?」と思われるかもしれないのですが、もちろん中国でもペットを飼うことはできます。ただ、私の母がアレルギー性鼻炎だったのと、1番の大きな理由は私が通っていた中国の学校では殆ど寮生活だったので、共同生活の中でペットを飼うことができませんでした。学校にもよりますが、基本中国では中学生の頃から全寮制の学校が多く、夏休みと冬休み以外は帰省しません。実家が同じ市内にある場合などは週末に帰宅する学生もいますが、週中はやはり寮で寝泊まりします。
なので、日本での留学が決まった時は、「やっと正真正銘の1人暮らしだ!!猫と生活することができる!!」と本当に嬉しかったですね。今飼っている猫は、ペットショップで購入したのではなく、保護施設から引き取った子なのですが、2021年7月、社会人になってから引き取ったので、仕事のストレスで崩れそうになった時に家で待っていてくれるこの子の存在は、凄く大きな精神的な支えになりました。
日本で興味を持ったもの:ご当地 マグネット
ご当地マグネットは、昔から集めるのが趣味だったわけではなく、日本で国内旅行をするようになってから集めるようになったのですが、日本のお土産屋さんでは、写真型のマグネットよりも、観光名所を模った立体的なマグネットが多く販売されていますよね。ご当地マグネットなら観光地で気軽に買えて、絵葉書よりも実用性があるアイテムだと思ったので、少しずつ集め始めたのですが、気づいたら冷蔵庫の壁一面マグネットだらけになってしまいました(笑)
集めたマグネットの中で1番のお気に入りは?
私のお気に入りは、「奈良」と大きく書かれた提灯を模ったマグネットです。(写真:中央下)写真を見てもらうとわかると思うのですが、提灯には奈良の2大シンボル「奈良の大仏」や「鹿」が描かれていますよね?更に中央には大きく「奈良」という文字が入っていて凄くユニークだと思いませんか?このマグネットを見つけた瞬間、私が思い描く奈良のイメージにピッタリなデザインだったので即購入することにしました。
日本で興味を持ったもの:出雲大社
「出雲大社」は日本を代表するパワースポットとして海外でも有名なので、中国にいる頃から名前は知っていたのですが、天国や地獄をブラックユーモアたっぷりに描いた日本のアニメ「鬼灯の冷徹(ほおずきのれいてつ)」という作品の中で紹介されているのをみて強く興味をもち、2022年1月に友達と訪れました。
視点を変えて物事を見ると答えは1つではなく、無限に存在する
これは「鬼灯の冷徹」という作品と出会ってから思ったことなのですが、日本では物事に対して面白い考え方をすることが多いですよね。例えば、神様。ほとんどの国では神様は1柱なのに対し、日本では「八百万の神様」といって、1柱ではなく無数に存在するという考え方をしたり、この世に存在する全ての物に神様が宿っているという考え方をしたり、旧暦10月は全国の神様が出雲へ集まると言われているので、出雲地方では旧暦10月のことを「神在月(かみありつき)」と呼び、その他の地域では、全国にいる日本の神様が留守になるという意味で「神無月(かんなづき)」と呼んだりしますよね。
あと、「鬼灯の冷徹」という作品は、完全オリジナルではなく「正法念処経(しょうぼうねんじょきょう)」という、簡単に説明すると地獄のガイドブックのような仏教の経典に基づいて描かれているのですが、中国で地獄と言えば「怖い」「恐ろしい」「生前、罪を犯した人が行く場所」といった、ダークな固定概念があるので、同じ題材で作品を作ろうとした場合、地獄に対してユーモアを生み出すことは非常に難しいのですが、日本の場合は、たとえそれが宗教的なことだったとしても否定をせず「視点を変えて物事を見ると答えは1つではなく、無限に存在する」という見せ方や、見方をできる人が多いので「鬼灯の冷徹」のような作品をつくることができるのだと思いました。
出雲大社はスピリチュアルに関する話や日本の神話が沢山残っている場所なので、捉え方によっては苦手だと感じる人もいると思います。しかし、私は、これも異文化コミュニケーション1つだと思っているので、否定的にとらえるのではなく、出雲大社以外のことに対しても、様々な視点で物事を考え、面白いと感じられるよう、柔軟な思考をもっていたいとおもいます。